税理士業界ニュース
(2015年8月)

「請求書」をサービスにして顧問先との強固な関係を構築!

クラウド活用で見えてくる会計事務所のブルーオーシャン

 これまでの会計事務所のビジネスモデルは完全に変わる−。加速度をつけて進むクラウドコンピューティングによって、会計事務所のビジネスモデルに変化が起きている。旧態依然としたビジネスを続けていると、いつの間にか時代に取り残され、淘汰の波にさらわれてしまうだろう。

 今回から「会計事務所ビジネスモデルの変革」と題した特集を複数回にわたって連載する。

 第1回のテーマは「請求書」。これまで会計事務所のビジネスとは縁が近いようで遠かった請求書管理が、今では顧問先との関係をより強固にできるサービスへと変化しようとしているのだ。


中小企業の請求書管理は会計事務所が適任

 企業にとって「請求書」というと、2通りの側面がある。

 まず、商品やサービスを販売して売上が立ったときに、企業は請求書を発行して取引先に送る。その売掛金を回収して現金へと変えていく。もう一方は、企業が仕入れや経費等の支出をした場合、取引先から請求書が送られてくる。その買掛金や経費を、定められた期日にしたがって支払っていくという流れも存在する。

 請求書はいわば、企業経営にとって血液の動脈と静脈の流れを示す重要な書類ともいえるだろう。

 これまで会計事務所と顧問先の請求書との間には、どのようなかかわりがあっただろうか。

 会計事務所にとって、顧問先の請求書は、現実的には「売掛金」「買掛金」「経費」などといった勘定科目の残高を示す要素に過ぎないと言ってもよい。月末や期末でトータル金額を確認する程度で、その中身の詳細まで関心を払うことは、まずなかった。

 中小企業は請求書1枚1枚に向き合って、苦労して業務を進めている。売掛金管理ひとつ取っても中小企業は苦心を重ねている。

 当然だが、すべての取引先が請求書を受け取って期日通りに支払ってくれるわけではない。経営が苦しくて支払えない場合もあるだろうし、なかには双方の担当者による販売契約時の行き違いでトラブルになり、売上を計上したものの、取引先が支払いを渋り、問題化しているケースもあるだろう。

 買掛金や経費も同様である。従業員が取引先や協力会社と癒着して、不正に手を染めている可能性もないわけではない。

 このような請求書の先にある売掛金、買掛金、:経費の詳細まで、従業員30人未満の中小・零細企業の社長が、社長業の傍ら、きちんと管理するのは、物理的に無理といってもよい。しかし、このような請求書を管理することは、企業の成長にとって不可欠でもあるのだ。

 では、このジレンマを解消するにはどうすればいいのか。中小企業に対して、会計事務所が経理の細部を管理してサポートすることが理想的といえるだろう。


米国では請求書をビジネスにして高額顧問料を得ている

 昨年11月の「ビジョナリーサミット2014」で特別講演を行った、トーマス・S・ボーン氏は、経理代行と財務代行(CFOサポート)というサービスを行い、高額報酬を実現している。

 報酬は1ヵ月あたり約25万円が相場だが、約80万円のクライアントもいるという。この経理代行業務のなかに「請求書管理」が組み込まれている。

 請求書の発行はクラウドで電子化されペーパーレス。「印刷」「封入」「発送」「保管」のコストが実質的にゼロとなっている。

 一方、取引先から受け取った請求書はスキャナーでデータ化。Bill.comというシステムと連動して管理される。データは自動で取り込まれ、クラウド会計サービスと同時処理され、支払いまで行える。もはや「入力」という作業がなく、インプットされたデータを会計事務所や顧客がチェックするというスタイルになっている。

 同じく前号で取り上げた、米国会計業界誌『Accounting Today』編集長のダニエル・フッド氏は、このように話している。

「Bill.comができる前はCPAが請求書発行サービスを行うことはありませんでした。今まで請求書の管理は、月末になって会計データに取り込むことができたのですが、クラウドをはじめとしたテクノロジーの進化によって、クライアントの請求書作成業務がCPAでもできるようになりました」

 ダニエル氏は会計事務所が請求書管理業務を行うことについて、2つのメリットを挙げている。

1. 顧問先が取引先からきちんとお金を支払ってもらえているかをチェックすることで、会計事務所にもきちんと報酬を払われるかが分かる
2.顧問先の資金繰りがリアルタイムで分かる

 このように、米国でも少し前までは請求書管理業務はCPAの仕事ではなかった。それが現在、クラウドの普及によって請求書をビジネスにしている。会計事務所にとって近くて遠い存在だった請求書が、新しいビジネスモデルを生み出しているのである。

 クラウドコンピューティングによって、請求書管理という新たなビジネスが確立しようとしている会計業界。さらに、クラウド活用による入力作業の省力化で、その先の付加価値業務である各種経営アドバイスやコンサルティングを提案することも可能だ。4割強の中小企業が「経営を良くするための助言までは受けていない」と回答。アプローチする余地は大きく残っている。

 請求書管理で、会計事務所と顧問先との関係が強固になる。その介在役となるのがクラウドである。ブルーオーシャンは、すぐ目の前に広がっているのだ。


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