税理士業界ニュース
(2015年5月)

マイナンバー制度がもたらすビジネスチャンスと淘汰の大波

 マイナンバー制度がいよいよスタートする。

 10月1日から個人番号通知が始まり、2016年1月からは、顧客等のマイナンバーを使って実務を行うようになる。マイナンバー制度導入で会計業界はどうなるのか?

 積極的に取り組めばビジネスチャンスになり、何もしなければ淘汰の波にのまれてしまう。どちらを選ぶかは自分次第。決断のときは、まさに今である。


マイナンバー制度が会計業界に与える5つの影響

 マイナンバー制度の導入によって、会計事務所はどうなるのか。

 マイナンバー制度に詳しい菅沼俊広税理士(税理士法人あすなろ代表社員)に、今後の会計業界への影響をうかがった。

[影響1]マイナンバーを使う場面、使う人を限定する仕組みが必要になる

 通常の実務にマイナンバー制度が絡むとどうなるのか。

 「氏名、住所等の顧客情報にマイナンバーが加わるだけ」と言えば間違いではないが、その程度の認識でいると危険だという。なぜなら、マイナンバーの取り扱いでは個人情報保護法が適用され、管理監督責任についてもこれまで以上に罰則が厳しくなっているからだ。

 「業務の中でマイナンバーを使う場面と使う人を限定して取り扱わないと、違反行為に抵触してしまいます」(菅沼氏)

 個人情報を扱うパソコンやそこにアクセスできる人を限定するなどの措置が必要になる。また、電子申告を使用し、マイナンバーを記載する申告書等については、マイナンバーなしで記載し、申告書を提出するときのみマイナンバーを記載して、申告後はマイナンバーを削除して保管するという方法が安全な手法と考えられている。

 特定個人情報保護委員会から特定個人情報の適正な取り扱いに関するガイドラインも発表されており、それに沿った取り組みを行う必要がある。

[影響2]ペーパーレス化が進行

 マイナンバー制度開始後は、紙ベースでの管理は難しくなると、菅沼氏は予想する。所得税の確定申告の場合は、マイナンバーが入ってしまうので、税務署に提出するのに代理人としての証明が必要になるなど、業務が煩雑になる。また、保存期間経過後のマイナンバーを廃棄する際にも紙ベースでは作業量が計り知れない。

 「ここの対応次第だけでも、会計事務所の二極化が起きるでしょう」(菅沼氏)

[影響3]顧問契約書が変わる

 従来の顧問契約書には、当然ながらマイナンバーに関する項目がない。よって、覚書等でマイナンバーの部分を付け加える必要がある。この作業が煩雑を極める。

 これまで顧問先と顧問契約書を交わしていない会計事務所でも、最低限この覚書をもらわなければいけない。そして、これを機にしっかりと顧問契約書を交わすことが望ましいといえる。

 「お客様から覚書をいただくのは、会計事務所側でも『マイナンバーにしっかりと対応します』という意思表示になるので、さほど高いハードルではないと思います。ただ、これまでずっと顧問契約書を交わしていなかった事務所が、あらためて顧問契約書を交わす際には『顧問料を下げてくれ』などと言われてしまうリスクはあるかもしれません」(菅沼氏)


個人への支払いが多い業種には特別フォローが必要

[影響4]業種・業態によって特別対応が必要になる

 たとえば、従業員の出入りが激しい飲食業や風俗業、建設業などの業種は、マイナンバー対応で苦労することが想定される。入社数日で辞めて連絡が取れなくなり、マイナンバーを入手できないときは、どう対応すればいいかが問題点として挙げられている。

 ほかにも、個人株主に配当したり、個人オーナーの不動産を社宅等で借りていたり、個人に講演・執筆等を依頼しているなど、不特定多数の個人に対して支払いを行う際も、支払調書作成時等にマイナンバーが必要となる。こうした業種・業態の顧問先に対しては、会計事務所としてもフォローが求められるだろう。

[影響5]「マイナンバー詐欺」が一般企業や会計事務所にアプローチをかける

 会計事務所はもちろん、一般企業にも多大な事務作業を強いるマイナンバー制度。今後、さまざまな企業がナンバーの収集・保管等に関するビジネスを始めるだろうと、菅沼氏は予想している。

 「小規模の個人会計事務所にとって、マイナンバーは大きな負担です。税務・会計のベンダーあたりがマイナンバーをトータルサポートしてくれるでしょう」(菅沼氏)

 一方で、異業種によるマイナンバービジネスへの参入も想定される。粗末なサービスだったり、中には詐欺まがいの対応をしてくる先もあるかもしれない。

 「マイナンバーが無関係な会計事務所や企業はありません。『当社に任せてくれれば一括で管理できます』と、巧みなアプローチをかけてくるところが出てくるかもしれません」(菅沼氏)

 以上から、マイナンバー制度導入によって、実務上や事務所経営上、さまざまな課題が浮上することが判明した。今後はマイナンバーにどれだけ意欲的に取り組めるかで、会計事務所の二極化が進むと、菅沼氏は予想している。


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