税理士業界ニュース
(2015年4月)

平成28年改正 保険業法施行に向けて
保険ビジネス いよいよ本格化!!


 「保険業法等の一部を改正する法律案(改正保険業法)」が平成26年5月23日に成立し、平成28年5月には施行される予定である。

 残すところ約1年。会計事務所は保険ビジネスを見直し、「やる」「やらない」の決断を下す必要がある。

 しかし、事務所経営の観点からは「やらない」の選択肢はない。腹をくくってコストをかけ、保険ビジネスを本格化させることが、会計事務所の生き残りにつながるのだ。


もう片手間では保険販売ができない!

 保険業法の改正は、複数の保険会社の商品を扱う保険ショップ等の大型代理店や、インターネット等の非対面販売の出現など、販売形態の多様化等に対応した、保険の募集・販売等に関するルールを整備する必要性から至ったもの。意向把握義務、情報提供義務といった募集ルールが新しく導入されたり、保険募集人(代理店)の態勢整備義務が導入されるなど、さまざまな法的義務が取り入れられている。

 今回の改正は、保険募集プロセスの実務や保険代理店の内部管理のあり方に大きな影響を及ぼす。会計事務所等の代理店が保険を販売する際、片手間にせず、一定のコストをかけて、本格的に実践しなければいけなくなるのだ。

 代理店業務を行っていたり、保険会社の営業マンに保険案件を紹介するなど、何らかのかたちで保険販売に携わっている会計事務所は多い。法改正まであと約1年。本腰を入れて保険代理店業務を実践していくのか、保険ビジネスから撤退するのか、決断を迫られている。


会計事務所こそ保険販売に最も適している

 「会計事務所こそ、保険販売に最も適しています」

 こう語るのは、税理士法人M&T(大阪府大阪市)の代表社員・三反田純一郎税理士。別法人を立ち上げ、保険会社10数社の商品を扱う乗合代理店を営む。スタッフ全員が日常業務の一環で保険販売を行っている。

 保険は節税や資産形成につながることもあり、元来から会計事務所ビジネスと密接にかかわる。法改正で代理店維持のハードルが高くなるからといって、簡単に撤退するのはもったいない。

 保険業法改正で、保険代理店業務に立ちはだかるハードルとは何か。

 金融庁検査局への出向経験を持ち、保険業法に詳しい吉田桂公弁護士はまず、今回の法改正で創設された「意向把握義務」と「情報提供義務」を挙げる。

 意向把握義務とは、保険募集人が保険募集に関して、顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の締結の提案、当該保険契約の内容の説明を行い、顧客の意向と当該保険契約の内容が合致することを顧客が確認する機会を提供しなければいけないというもの。

 「『商品ありき』ではなく『ニーズありき』で保険を提案しなければいけません」(吉田氏)

 情報提供義務とは、保険募集人が、顧客が保険加入を判断する際に参考となるべき商品情報等を提供しなければならないというもの。

 「顧客に対して、取扱商品のうち比較可能な商品の概要を明示し、その中から特定商品を提示・推奨する場合は、その理由を説明することが求められます」(吉田氏)

 さらに、今回の法改正での大きなポイントとなっているのが、態勢整備義務。保険代理店は、次の事項などを確保するための措置を講じなければならない。

1.保険募集の業務に係る重要な事項の顧客への説明
2.保険募集の業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱い
3. 保険募集の業務を第三者に委託する場合における当該保険募集の業務の的確な遂行
4. 二以上の所属保険会社等を有する場合における当該所属保険会社等が引き受ける保険に係る一の保険契約の契約内容につき当該保険に係る他の保険契約の契約内容と比較した事項の提供
5. 保険募集人指導事業を実施する場合における当該指導の実施方針の適正な策定及び当該実施方針に基づく適切な指導

 「各代理店は、自律的な態勢整備を行う必要があります。たとえば意向把握義務と情報提供義務を遂行するため、どのように顧客のニーズを聞き取って把握し、どのように商品を選定し、推奨したのかといった経緯を記録して、それを後でチェックし、募集人が適切な意向把握や情報提供を行っていたかを確認・検証する態勢を構築する必要があります。これは代理店にとって大きな業務負担になると思われます。現時点でここまでできている代理店は少ないのでは」(吉田氏)


「保険販売を扱わない」という選択肢は「ない」

 保険業法改正に伴い、会計事務所は保険販売に対するスタンスを見直し、本格的に代理店業務を行うか、保険販売をやめるか、決断を迫られている。

 先の三反田氏は、会計事務所が「保険販売を扱わない」という選択肢は「ない」と考えている。

 「中小企業の企業防衛資産形成ツールは、現在では保険しかありません。定期預金の金利は低いし、バブル期に盛んだった不動産や株式はリスクが大き過ぎますから。保険は資産形成と節税と保障をもたらします。まさに、会計事務所の役割である『中小企業が本業に専念できるためのお手伝い』を実現できる最適なサービスなのです」(三反田氏)

 保険販売を扱わなくてもいい会計事務所のタイプについて、三反田氏にうかがうと「本業の税務会計だけで月に5万円以上の報酬がもらえる事務所」「相続や経営計画等の専門的サービスだけで事務所経営が成り立つ事務所」を挙げた。つまり、大部分の会計事務所は保険ビジネスに本腰を入れる必要があると見ているのだ。

 「保険はお客様から選ばれる大きなポイントになります。逆に保険を扱わないと、お客様から選ばれなくなるでしょう」(三反田氏)

 保険業法改正まで、あと1年。保険ビジネスを本格的に行うのならば、今から準備をする必要がある。今が決断のとき。法改正をチャンスととらえ、保険ビジネスを事務所のキャッシュポイントにしよう。


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