税理士業界ニュース
(2014年11月)

会計業界の「給与計算」最新事情

 会計事務所や企業を取り巻く給与計算の環境に変化が起こっている。

 クラウドサービスの普及やITテクノロジーの進化は、新しいソフトやサービスを生み出し、企業や経営者たちに恩恵をもたらしている。会計事務所にとってもこれは無縁ではない。新しいサービスやシステムを駆使することで、顧問先や経営者により高い価値を提供できるようになってきているのだ。


給与計算代行は会計事務所のビジネスになる

 「給与計算について社内で悩んでいる担当者の方は多いですよね。改正なども多いですし、業務自体も大変ですし。給与計算を代行してほしいというニーズは確かに多いですね」と語るのは、事務所で積極的に給与計算代行を手掛けているつばさ会計事務所(東京都中央区)の井上孝史氏(所長 税理士)だ。

 井上氏の事務所では、給与業務の専任スタッフを採用・育成し、起業間もない小規模事業者から数百人規模の中堅企業まで、幅広く給与計算代行業務を請け負っている。社労士事務所ではなく、会計事務所で専任の担当者を雇用し、給与計算を代行している事務所は珍しい。

 「アウトソースで受託しやすいんですよ。給与計算はラインを作れば業務ができます。月額2〜3万円というお客様もいらっしゃいますが、ノウハウさえ蓄積して業務フローを構築できれば、会計事務所にとっても十分ビジネスになるんですね」(井上氏)

 井上氏が顧客から給与計算を受託して過去のデータを見てみると、9割以上の確率で誤りが見つかるという。

 会計処理に関しては「自分にはわからない」と判断し、会計事務所に依頼するのを当たり前と考えても、給与計算については専用ソフトに入力すれば毎月データができてしまう。これによって「自分でもちゃんとできている」と勘違いし、誤りを残したまま進めてしまうケースが多々見られるという。「ですので、当社では外資系の企業様からの給与計算代行のご依頼も多いですよ。彼らは『日本の給与制度はわからない』と自覚していますから、頼まなければいけないとスムーズに考えられるからじゃないかと想像しています」(井上氏)

 給与計算の業務はイレギュラーの連続だ。このイレギュラーに知識や経験のない企業の担当者はなかなか対応できない。

 誤りを放置したまま時間は過ぎ税務調査が入ったときや社員が退職するときなどにようやく発覚し、トラブルになるケースも珍しくないという。


給与計算を外注に出し経営者は本業に集中する

 前回、アメリカの会計事務所の最新動向についてお届けした。

●クラウド会計の浸透とニーズの高まり
●経理代行やCFO派遣など付加価値の高い業務の提供
●ペーパーレスやバーチャルオフィスなど効率化の徹底

 クラウド化やペーパーレスを推し進めることによる徹底したコスト削減、並行して提供される高付加価値サービスによる高単価の顧問料など、日本の会計事務所業界の近未来の姿がアメリカ西海岸の会計事務所から浮き彫りになった。

 そのなかで、彼らが提供していたサービスの一つが「給与計算代行」だ。

 「当社の給与計算代行のお客様は、数十人規模から500人規模の企業様が中心です。500人以上になると自社内に担当者を置いたほうが、コスト的にも安く済みます。顧問契約と合わせてご契約いただいている数百人規模のお客様でしたら、やはり顧問料と合わせて月にそれなりの金額を頂戴しています」(井上氏)

 井上氏の事務所では、アメリカの会計事務所と同様に、顧客から求められている価値を提供することで、昨今の会計事務所業界で巻き起こった低価格競争とは一線を画した事業展開を行っている。 企業が給与計算をアウトソースするメリットは大きい。

●正確な給与データを作成できる
●複雑な計算業務から担当者を解放する
●社内の担当者に給与情報を知られずに済む
●情報流出の危険性を防げる

 まだ小規模で、経営者自ら給与計算業務を行っているような組織ならなおさらだ。その分の時間・労力を本業に集中できるようになる。


給与明細のWeb配信で業務効率化とコスト削減を実現

 一方で、給与にまつわる業務環境も劇的に進化している。Web給与明細配信システムはそのひとつだ。

 従来の給与明細のフローは以下のような手順で進められる。

(1)給与計算ソフトでデータを作成
(2)専用プリンターで印刷
(3)封入・封緘作業
(4)各部署ごとに仕分け
(5)郵送
(6)各部署の担当者が従業員へ手渡しする

 給与関連の業務は毎月必ず発生する。企業の担当者はこれらの業務に一定の時間を取られてしまう。

 Web給与明細配信システムを採り入れられれば、上記(2)以降のフローがすべて不要になる。

 給与計算ソフトで計算された給与データは、メールで従業員のパソコンやスマートフォン、タブレットへと一斉配信され、IDとパスワードを入力することでいつでもどこからでも確認できる。給与担当者の業務フローを大幅に削減し、より付加価値の高い業務を行う時間を生み出すことができるようになるのだ。

 紙資源にかかるコストを削減できるのも大きな変革のひとつだ。

 日本では今、年間に約2608万トンもの紙・板紙を消費していると言われる(出典:「世界の紙・板紙使用量」日本製紙連合会調べ)。これは、国民一人あたり約260キロもの紙を1年で使用している計算になる。

 Web給与明細配信システムが普及することでペーパーレス化が進み、企業はコストダウンを実現できる。また、毎月の給与明細用紙の節約にもつながり、エコ活動にも直結していく。