税理士業界ニュース
(2014年2月)

税理士よ。今こそブルーオーシャンに漕ぎ出そう!

 小規模事業者や個人事業主などの「スモールビジネス層」には、多くの潜在顧客が眠っている。ブルーオーシャンであるこの潜在顧客をどう開拓していくのか。新時代の会計事務所経営を探る。


2年間で約3千億円の増収を果たしている会計業界

 会計事務所業界は果たして不況なのか、好況なのか。総務省統計局が発表した「サービス産業動向調査」から、会計事務所業界の総売上を見てみよう。

会計業界総売上の推移

 同調査によると、会計事務所業界の総売上は、平成22年の約1兆円を底に、平成23年が1兆2千億円、平成24年には1兆3千3百億円と増えている。かつて「1兆円産業」と呼ばれた時代から、今では3千億円もの売上アップを果たしているのが現状だ。

 とはいえ、業界内では一般的に、約80%の事務所が売上減収または横ばいで推移していると言われる。業界全体の売上は伸びていても苦しい事務所経営を強いられているなかで、これから会計事務所に求められていくものとは一体何か。それはパラダイムの転換だ。

 今までの環境、考え方、道具にとらわれず、物事を考える。

 パラダイムの転換とは、色眼鏡を外し、もう一度いまの時代を見ることである。

 きっと、ブルーオーシャンはその先に広がっている。


単価を増やす戦略から顧客数を増やす戦略へ

 これまで、会計事務所の多くが単価(顧問料)を上げようと努力してきた。

 経営コンサルティングに代表される高付加価値のサービスを提供することで高単価の報酬を得るという、ビジネスモデルを目指してきたが、その考え方を変えなければいけない時期がやってきた。

 売上=顧客数×単価と考えた際、単価を上げるのではなく、顧客数を増やす戦略に切り替えるのだ。

 それを裏付けるデータがある。

 記帳代行サービスを提供している運営会社を、調査してみたところ興味深い結果が浮き彫りとなった。

 会計事務所が運営している記帳代行サービスが52.7%、残りの47.3%のサービスは「一般企業」「他士業」「商工会」など、会計業界外から参入している(「2014 会計事務所の経営白書」より)。

 会計事務所が高価格のサービスを提供しようと躍起になっている間に、他業種にシェアを侵食されてしまっている。

 ではどうすればよいのか。顧客が本当に求めているサービスに今一度立ち返り、経営者や個人事業主が真に困っている部分にフォーカスしアプローチする必要があるだろう。

 高額な会計専用コンピュータを勧めるのではなく、安価でシンプルなサービスを提供する。

 複雑で難解な経営資料を渡すのではなく、経営者がひと目で分かりやすいものに変えていく。

 高額な顧問料との引き換えに、毎月定期訪問を行うのではなく、顧問先が求める来所型に切り替える。

 これまで「常識」と言われていた事柄を、色眼鏡を外してもう一度見つめなおしてみたとき、会計事務所が今本当に提供しなければならないサービスが見えてくる。


新しい道具がもたらすイノベーション

 中小企業庁が公表した「中小企業実態基本調査」で、年商別の企業数分布が分かる。

 合計355万社ある企業のうち、年商1億円以下の企業が290万社となり、82%を占める。

 これまで、会計事務所はこれら小規模事業者や個人事業主に対して積極的にアプローチを行ってこなかった。

1.高価格帯の顧客中心の事務所経営で問題がなかった
2.手間が掛かり、売上とコストが見合わない
3.小規模事業者や個人事業者側も会計事務所を必要としていなかった

 そしてもう一つ、大きな課題が残されていた。「営業方法が見当たらない」。これら小規模事業者や個人事業主に対する営業方法が会計業界内で見当たらなかったため、開拓したくてもできなかったのだ。

 これまで掛けていた、「会計業界の色眼鏡」を外したとき、ここに大きなビジネスチャンスが埋もれていることが分かるはずだ。

 しかし、8割以上を占める年商1億円以下企業をターゲットに、安価で数をこなせる事務所の体制を構築し、本当に顧客が求めているサービスを提供する。そのためには「道具」がいる。

 かつて、会計事務所業界に起こったイノベーションを振り返ってみると、ITの発展と歩調を合わせてきたことが分かる。

 オフコンの導入、パソコンと会計ソフトの普及、そしてWeb。会計事務所経営に変革をもたらしてきたのは、これら「道具」の数々だった。

 今、会計事務所には変革が求められている。従来の顧客層を離れ、新たなターゲットを開拓していくための事務所づくりが必要となっている。

 これは同時に、事務所経営にイノベーションをもたらす新技術を伴った「道具」の必要性が高まったことを意味する。従来の武器では事務所経営に革新は起こらない。その「道具」とは一体何か。どこにあるのか?


熾烈な競争を続けるか新大陸へと漕ぎだすか

 会計事務所が提供しようとしてきたサービスと、顧客が求めるニーズとの間には大きなボタンの掛け違いが起こっている。そこに気がつけるかどうかで、今後の事務所経営は大きく変わる。

 小規模事業の経営者や個人事業主が求めている会計事務所の価値とは、安価な顧問料で手間のかかる作業を引き受けてくれること。これまで「ちゃんとしていないから引き受けたくない」と感じていた層を顧客にするビジネスモデルの構築が急務となった。

 経営者を、会計、経理、税務の煩わしさから解放する。そして、事業に集中できる仕組みや環境を整え、売上と利益が生まれる会社づくりに貢献する。

 帳簿付けや入力、仕訳処理は経営者の本業ではない。経営者に必要なのは、事業を継続・成功させるために必要な経営数字を元に、自社の戦略を立てること。会計事務所はそのサポートのためにある。「ちゃんとしていないから引き受けたくない」と感じていた顧客層こそが、まさに今、会計事務所の力を必要としている層であり、ライバルの少ないブルーオーシャンでもある。

 これまでどおり、顧客獲得競争と値下げ合戦が繰り広げられているレッドオーシャンに居続けるか、新たな新大陸へと船を漕ぎだすか、決断のときは迫っている。