税理士業界ニュース
(2014年1月)

スモールビジネスの開拓と掘り起こしが会計事務所生き残りの「鍵」

税理士業界ニュース編集長 広瀬元義

 2014年の会計業界はどうなるのだろうか。

 間違いなくいえることは、ビジネスモデルの転換期に入ったことだ。

 今後どの方向に会計事務所経営のかじ取りを進めればいいのか。本紙編集長・広瀬元義が2014年の会計業界を展望する。


2014年は決断の年

 今後、会計事務所がメインターゲットとして狙うべき層はどこなのか。

 実は企業の約7割が年商5,000万円未満で、その数は255万社もあり、年商3,000万円未満だと220万社も存在し、圧倒的多数を占めている。今まで、これらスモール層は新規顧客としての発掘が困難だったが、ここへきて掘り起こし方法が発明され、ここから多くの新規顧客を開拓することが可能になったのだ。

 イメージとしては、米国最大の申告代行会社・H&Rブロックを思い出していただきたい。2013年、2店舗を持つあるオーナーに話を聞くと、米国の確定申告期間にあたる1月から4月15日の間に、全部で3,600件もの申告を行ったという。これをたったの8人のスタッフで処理しており、オーナーはもちろんマネージャークラスの人も入力なんてしていない。

 売上とは「単価×個数」。H&Rブロックが顧客としている層は、だいたい年収500万円以下のサラリーマンであり、1件当たりの単価は安いが、件数を多くこなすことで、1店舗で1億円以上を稼ぐことができ、オーナーの収入は3,500万〜4,000万円くらいになる。日本の会計事務所ももうすぐH&Rブロックのように、低単価のスモール層を数多く扱うビジネスへと変化していくのではないかと確信している。


これまでスモール層に手を伸ばさなかった5つの理由

 ではなぜ会計事務所はこうしたスモール層に手を伸ばさなかったのかというと、5つの理由がある。

1.相手にしなくても経営が成り立っていた

 今まで会計事務所は、これらスモール層を相手にしなくても、十分に顧客が存在し、事務所経営が成り立っていた。したがって、ほとんどの会計事務所はこれらの企業を顧客として視野に入れていなかったのである。

2.手間がかかる

 年商5,000万円未満のスモール層は、一般的に税務・会計に関する知識に乏しいケースが多い。帳簿の付け方もよく分からず、簿記の「借方」「貸方」も知らず、伝票の扱い方もよく分からないという人間がほとんどなので、会計事務所が顧問についたら、ゼロベースで経理指導を行わなければならず、相当の手間がかかる。

 従来のオフコンを使って巡回監査を毎月行うといったシステムで、これらスモール層にサービスをしようとすると大変で採算が取りづらい傾向にあった。件数と手間だけが増えて儲からないという負の連鎖になっていくので、これまで多くの会計事務所は敬遠してきたのだ。

3.スモール層も税理士を必要だと思っていない

 会計事務所がスモール層に手を伸ばさない一方、こうしたスモール層の側も会計事務所を必要と思っておらず、両者に接点が生まれなかったことも原因にある。

 起業間もない事業者の多くは、会計事務所の必要性を感じていない。実際、当社でも新設法人設立の支援を行っているが、税理士と顧問契約を結ぶのは、わずか3%であり、多くの起業家が「会計事務所に頼むと何十万円もかかるから嫌だ」と、なるべく支出を減らしたいと考えている。その一方、50%ほどの起業家が記帳業務のみを当社に依頼している。少人数でビジネスを立ち上げると経理まで手が回らないことから、記帳代行のニーズは高いのだ。

 また「会計ソフトを買ったから、自分でできるだろう」「簿記2級を持っているから大丈夫」と考えている人もいる。もちろんそれだけでは申告までできないのだが、全部できると思い込んでいる経営者は少なくないのである。

 ほかには「私みたいな開業してすぐの者が税理士先生にお願いしていいのでしょうか」と、会計事務所に敷居の高さを感じている人や「自分で申告していても税務署が来なかったから大丈夫」と思い込んでいる人も存在する。スモール層にアプローチするためには、これらのことを念頭に置き、行動する必要があるだろう。

4.営業方法が見当たらない

 これらスモール層に対する営業方法が、会計業界内で見当たらなかったのに加えて、これから会社を設立しようとする層のリストというものは存在しないため、Webで集客するしかない。

 Webマーケティングは現在でも有効な施策だ。しかし、必要な予算が高騰しているのも事実だ。

 Webから集客した設立案件を、顧問契約へと結びつけるための営業力の強化が求められている。

5.どんな価値を提供すべきか分からない

 会計事務所が自らの価値を提供するというと、中堅企業と同様に経営計画等の付加価値サービスを考えてしまい、その必要性を訴えがちだが、先ほど話したような「経理がちゃんとしていない」社長に経営計画を訴えても伝わりにくい。

 彼らが望んでいる価値とは「手間がかからず安い」サービスであり、面倒な経理処理をできるだけ安価で簡単にできるようにしてくれるところに価値を感じるのだ。会計事務所は「経理がちゃんとしていない」「起業したばかりで年に10万円程度でなんとかお願いしたい」という経営者を顧客にするビジネスモデルを構築しなければいけないときが来たのではないかと感じている。