税理士業界ニュース
(2013年11月)

会計業界に訪れる大波に乗れ!
「消費税増税」はビジネスチャンス


 2014年4月に8%への税率引き上げが決まった消費税。今回の増税は税理士にとって大きなビジネスチャンスになる。一方、消費税増税が税理士の淘汰を後押しするという見方もある。商機か淘汰か、どちらの大波に乗るかは、税理士の決断次第だ。

 「これからは消費税への十分な対応が欠かせません。増税分を価格に転嫁できるかをアドバイスするため、税理士は今後、クライアントの事業の中身に踏み込むことが求められます。今回の消費税の改定は、中小企業にとって生き残れるかどうかの瀬戸際だからです。価格転嫁は過去において税理士が携わっていない分野だけに、重要性が増しています。転嫁というのは、クライアントの店舗や工場などの現場を自分で見ないと、適切な指導ができません。どんな流通形態に存在するのかを見極め、転嫁に困っているクライアントの役に立てれば、大きな信頼を得られるでしょう」

 これは、平川忠雄税理士が今年初頭、当社発行の「2013会計事務所の経営白書」でのインタビューにて語った言葉。消費税増税が税理士にとってビジネスチャンスであることを示している。


踏み込んだ経営指導で顧問料増額が期待

 なぜ消費税増税がビジネスチャンスなのか。それは、今回の増税が中小企業に大きな影響を与えるからである。

 消費税増税によって、企業は多くの経営課題に直面する。想定される課題をいくつか挙げてみる。

●税率アップに伴う価格転嫁
●価格表示の変更
●会計システムの変更
●仕入先、販売先との価格交渉
●駆け込み需要を勘案した販売計画、仕入計画
●増税後の需要落ち込みに対するマーケティング戦略
●売上・利益の減少、消費税申告納税額の増大等による資金繰り対策
●各種契約書の見直し

 消費税増税は中小企業経営を大きく揺さぶるだけに、踏み込んだ経営指導が求められる。これは会計事務所にとってチャンスでもある。積極的な提案とアドバイスを行うことが望ましい。

 場合によっては付加価値の高いスポット業務の受注や顧問料増額が期待できる。「消費税増税対策の一環」として提案すれば、顧問先にもスムーズに受け入れられるだろう。

 一方、会計事務所が何のアドバイスもしないでいると、顧問先の業績は確実に悪化する。すると、廃業・倒産の憂き目に遭い、顧問先数の減少を強いられる。消費税増税で何もしないことは、事務所経営上リスクになるのだ。

 もうひとつ、消費税増税がビジネスチャンスになる理由がある。それは、増税を機に引退する税理士の出現だ。消費税増税が業界の世代交代を後押しする可能性が濃厚になっている。


引退予備軍税理士が消費税増税で引き際を悟る

 「消費税増税を受け、ソフト導入を含めてどうしようか、今後のことについて悩んでいるベテラン税理士の話を耳にすることがあります」と税理士法人イデアコンサルティング(Q−TAX恵比寿西口店)代表社員の伊東大介税理士は語る。今後税制が複雑化すれば、実務面でついていけなくなる税理士が出てきて、業界で一部世代交代が進む可能性があるとも予想している。

 「年齢的、体力的に限界で、そろそろ引退を考えている」という「引退予備軍税理士」にとって、消費税増税は引退を決断させる十分な要因になる。周知の通り、消費税は平成元年に導入された税目なので「引退予備軍税理士」は実務の知識に乏しいケースが多い。不案内な消費税が短期間で8%、10%と増税し、もし軽減税率まで導入されるとすれば、もはや対応が困難。引退を迷っている税理士は、引き際を悟る可能性がある。

 そうなると、これまで「引退予備軍税理士」の顧問先だった企業が、新規拡大を進める会計事務所にとって格好のターゲットになる。そのときに「消費税に強い税理士」であることをアピールしておけば、新規獲得に結びつくだろう。

 あるいは「引退予備軍税理士」が引退を決心することで、会計事務所M&Aの動きが一気に加速するかもしれない。そうした動きもチェックする必要があるだろう。 消費税は税賠(税理士職業賠償)リスクが大きい「魔の税目」でもある。「引退予備軍税理士」の事務所は、消費税実務を職員にまかせっきりで、実務体制が不安定なケースが多い。今後一層実務の負担が大きくなる消費税に十分な対応ができない税理士、会計事務所は、淘汰の一途をたどる危険性をはらんでいる。


何もアドバイスしないと顧問契約解除のリスク大

当然ながら、顧問先企業でも消費税増税に関して、会計事務所にさまざまな質問や相談をしていると思われる。

「施行日前に仕入れた商品を施行日後に販売した場合はどうなる?」
「『増税分3%値下げ』と銘打ったセールを行っても大丈夫?」
「もし増税分を反映しないで商品を売ったら、資金繰りにどのような影響が出るのか?」
「今まで『500円』『700円』と税込みで区切りのよい価格にしていたが、増税後はいくらにすればいいのか?」

 このような質問・相談に適切に答え、付加価値の高いアドバイスができるようになることが重要。「税務申告と記帳だけしかせず、コミュニケーションが特に密接ではない」というレベルのサービスを実践している会計事務所は要注意。「消費税増税で何もしてくれない」と、顧問契約を解除されてしまいかねない。

 また、消費税に対して受け身の姿勢では、契約解除リスクは大きくなる。統計によると、過半数の企業が消費税増税で業績に悪影響が出ると、不安になっている。まずは会計事務所から消費税に関する情報を発信し、経営指導を提案することで、顧問先の不安がやわらぎ、顧問契約が継続するのだ。