税理士業界ニュース
(2013年2月)

2013年は価格から価値を伝える時代へ

 1月に弊社では「2013年会計事務所の経営白書」を刊行した。会計事務所を取り巻く環境をデータで表し、それをもとに業界の現在と未来を示している。本特集では同書が明かした会計業界の近未来についてのエッセンスを紹介する。


情報が過多になると価値が重要になる

 2002年の税理士法改正から10年が過ぎ、ここ2、3年で会計業界が大きく変化した。どの業界でも、変革は以下のような手順で進行する。

1.競争の激化(税理士同士、外部からの参入)
2.顧客からの値下げ圧力
3.身内からの価格破壊者の登場

 税理士法改正まで「競争」という概念がなかった会計業界でも、競争が始まると、互いが「価格(顧問料)を下げる」という差別化の常套手段を用いてきた。しかし、2012年は一通りの低価格競争にも底値感が見え始めてきた感覚がある。2013年からは徐々に「価格さえ下げればよい」とはならなくなると予測される。

 それはなぜか。大半の会計事務所が価格を下げれば、顧客が選択の基準をなくしてしまうからだ。

 かつてスティーブ・ジョブズがあるインタビューで次のように話していた。

 「情報が完全に過多になり、人々が日々受け取れる情報の量に圧倒されている世界では、ブランド(価値)がさらに重要になる。人々は、日常生活のすべての事柄について、選別している時間はない。ブランドはその選別を助けてくれる」

 この言葉からもわかるように、ブランドあるいは価値というものを、いかにして顧客に伝えるかが、2013年の重要なキーになるだろう。


顧客が求めている税理士サービスに気付こう

 これまで弊紙でも「IT長者の出現」「ゴールドラッシュの到来」などと会計業界の大波を報じてきた。しかし、現在のようにリスティング広告やSEO対策に多額の資金を費やして新規顧客を獲得できる時代は、そう長くは続かないと思われる。まさに「紹介会社の終焉」と言ってもよいだろう。

 では、「価値を伝える時代」に向けて何をすべきなのか。それは、税理士一人ひとりが本来の自分たちの存在意義をもう一度見つめ直すことである。事務所のミッション、ビジョン、バリューをあらためて確認し、再構築する。そして、次のステージへと移らなければならない。

 次のステージというのは立場が上がることではない。顧客が求めている税理士サービスに気付き、それを実践することである。そこに気付かない限り、これからの会計事務所の生き残りは厳しい。税理士としての自分の価値はどれくらいで、何をどうやって売るのかを決めることが重要なのだ。

 価値を伝えるには、知識やノウハウを詰め込むことも大事だが、それよりも、ブランド力を高めることが先。そうでないと事務所に優秀な人材が入らず、業績を向上できない。確固たるブランドがあれば、人はそこに価値を感じてお金を払う。それにはまずWebをはじめとしたマーケティング・営業活動に着手しなければいけない。

 ブランド力とは「安さ」から抜け出た場所に生まれる。自身の生み出せるバリューとは何か、考えた先に見えてくる。たとえば「早い」「近い」、これらもひとつのブランドといえるだろう。


新設法人生存率から見える「価値ある本物(プロ)のサービス」

 現在、低価格競争サービスの最たる例は「会社設立」である。Webサイトを見ると「会社設立安くやります」とうたっている会計事務所は多い。

 しかし、価格一辺倒のサービス内容を見直す時期に差し掛かっている。「新設法人は10年後に10%しか残らない」とよく言われる。

 そんな現状で会計事務所が格安価格で会社設立だけ、税務申告だけかかわっているのは、まるで会社を設立するだけ設立して、大海原に放り投げるのと同じである。

 多くの起業家たちは技術力か営業力に自信があって会社を立ち上げる。一方、同時進行で「経営」についての競争をしなければならない。そうなると、顧問税理士の厚いサポートは欠かせない。

 新設法人のマーケットに飛び込んで新規拡大を実践する税理士は多い。ここで今、創業とは何なのか、経営とは何なのかをいま一度立ち返って十分に理解し、その上で顧客をサポートすると、サービス内容がより充実したものになる。

 これこそがまさに「本物(プロ)」で、次代に求められる「価値」である。

 それをいかにして伝えていくかが、2013年からの会計事務所に求められるのではないだろうか。


2013会計事務所の経営白書(トレンド)