税理士業界ニュース
(2013年1月)

新たな時代が2013年から始まる
〜5年後のマーケットに向けて今行うべきことは何か〜


カクヤスの成功事例に見る5年後を生き抜くためのヒント

 カクヤスという酒販チェーン店がある。売上高は1,000億円超、店舗数は155点を数える一大企業だ。

 カクヤスはもともと、いわゆる普通の「酒屋さん」だった。酒類の販売には国からの許可がいる。法律に守られた認可商売として、御用聞きをしていれば食べられた。

 ところが、2003年に規制緩和の嵐が業界に吹き荒れ、客の奪い合いが始まった。

 それまで競争などしたことがなかった業界だったため、ライバルに打ち勝つために取れた施策は価格を下げることだけだった―。

 会計業界とほぼ同時期に、酒販店も同じ環境変化に襲われていた。その環境の激変を生き残ったのがカクヤスだ。

 彼らが苦境を乗り越えた理由は価値の提供にある。

 彼らは「東京23区内のどこでも、ビール1本から、無料で、しかも注文から2時間以内に配達する」という、当時の常識では考えられないサービスを顧客に提供した。

 従来の酒販店の常識を覆した先にあった価値を届けることで、大きく業績を伸ばしたのだ。

 お客様の立場に立ったサービス、価値を伝えるというのは難しい。しかし、それでもやらなければ生き残れない。この危機感を、会計事務所はどれほど強く抱いているだろうか。

 2013年現在、町の酒屋さんが20年前と比べてどうなっているのか考えて欲しい。価値を提供できた酒屋がカクヤスになり、できなかった酒屋が消えていった。会計事務所もこれと同じなのだ。


消滅していく事務所にはどのような特徴が見られるか

 2013年に会計事務所が進まなければならない道筋を考える前に、今後、消えていかざるを得ない事務所にはどんな特徴があるのかを考えてみよう。そうすることで、これから企業から求められる会計事務所の姿が浮き彫りになってくるはずだ。

 まず「安定志向」を持つ事務所は今後半分くらいが消滅してしまうだろう。

 具体的には次のような会計事務所だ。

●売上が5,000万〜1億円ほど
●所長が50代で所得が2,000万円くらい

 この規模の事務所は、安定した収入があり所長自身の所得もサラリーマンなどよりはよっぽど多く、突然明日潰れる心配もない。事務所経営にまつわる苦労はあるが、この10年にわたって我が世の春を謳歌できた事務所といえる。

 安定しているからこそ変化をする必要がなく、変化に鈍感だから成長ができない。安定とは衰退を意味する。今後5年のうちに徐々に顧問先を失い、静かに消えていく運命にあるだろう。もちろん、上記の売上・所得に当てはまらない事務所は安泰だという話ではない。

 今に安住し成長を求めない事務所は総じて危険だ。

 いま、中小企業の経営者たちが変わり始めている。これはすなわち経営者が会計事務所に求めるものも合わせて変化していることを指す。この変化を感じ取れずに求められている価値を提示できなければ、その事務所も5年後に生き残るのは難しいだろう。

 成長が止まったら、会計業界から引退するほかないのだ。

 税理士自身、職員自身、そして何より会計事務所全体が成長し続け、時代に則した価値のあるサービスを提供し続けるほか生き残るすべはない。


手続き代行屋で終わらせない事務所作りを始めよう

 では「成長」とは具体的には何を指すのだろうか。それは自分のポジションが今どこにあるのかを適切にとらえ、顧客が求めるサービスを常に提供し続ける環境を作り上げることだ。

 いま、中小企業の経営者が求めているのは税務に関する手続き代行屋ではない。ビジネスパートナーを求めているのだ。

 記帳代行や税務申告はもちろん会計事務所の大切な業務だ。

 しかし、これだけに頼ってしまっていてはライバルと差別化を図るなど夢のまた夢、その先に待っているのは価格だけでの差別化、つまり低価格競争だ。

 会計事務所は他業種と比べてもとりわけ差別化が難しい。だからこそ、より意識してその事務所なりの価値、事務所なりのポジションを作り上げなければならない。会計事務所にとっての「成長」とはこのことを指す。

 税理士法改正から10年が経ち、かつての激変もいまでは常識となった。価格競争もそろそろ収束を迎え、ついに新たな時代の扉が開き始めた。

 2013年、今年は今後訪れる新たな「激変」の始まりの年となるだろう。その変化に耐えうる事務所をつくるための一歩を勇気とともに踏み出して欲しい。


2013会計事務所の経営白書(トレンド)