会計事務所経営に役立つ情報
(2016年7月)

「戦国武将の相続・事業承継失敗と現代相続の類似と
その話し方のポイント」セミナー

 同セミナーの講師を務めたのは、眞ア正剛税理士・社会保険労務士(税理士・社会保険労務士 眞ア正剛事務所所長)。「歴史上有名な事業承継事例を分析することで、現代の事業承継問題に役立つことがあるのではないか」と考え、セミナーを企画した。

 セミナーでは、武田家、織田家、豊臣家、上杉家、毛利家、徳川家の6家の事例を紹介。このなかで、完璧に事業承継が成功したのは、260年にわたって江戸幕府が続いた徳川家のみ。あとは滅亡か、家が残っても石高の大幅縮小を強いられている。これらの失敗・成功事例を分析し、現代の事業承継に活かそうと解説が展開された。

 眞ア氏は、セミナーで取り上げた6家で最も事業承継の失敗度が高い事例を武田家ととらえて解説した。日本を代表する大大名(大企業)になりながらも、武田信玄の死後、勝頼に事業承継し、わずか9年で滅亡(倒産)したからだ。「これほどひどい相続・事業承継はない」と眞ア氏は語っている。

 生前、信玄は後継者を正式に表明しておらず、臨終時に勝頼や重臣たちに対して、「正式な家督は勝頼の息子に譲る。成長するまでの間、勝頼がその代わりを務めるように」と遺言したといわれる。正式な後継者ではない「社長代行」という中途半端な肩書きで武田家を継ぐことになった勝頼。さらに家臣からも経営者としての資質を疑問視され、軽んじられた。

 信玄亡き後、織田・徳川連合軍と対峙することになった勝頼は家臣の寝返りに遭った。さらに家臣たちの意見に耳を貸さずに自らの力を過信したことから長篠の合戦で大敗を喫し、自害に至った。

 眞ア氏は、これらの事例を現代の会社に例え、次のように分析した。

【現経営者(信玄)サイド】

  • 自分が病に侵されていたことは知っていたのに、いつまでも家督相続を行わず、後継者育成に真剣に取り組まなかった・勝頼を「代理の当主」にするという中途半端な禅譲を行った
  • 後継者(勝頼)を軽んじる古参家臣を残し、後継者がやりづらい体制にした
    →どんな形であれ「後継者」にしたのなら権限移譲や体面も後継者にふさわしいもの/にすべき。現経営者が後継者の価値を落とし、お膳立てをしていない。

【後継者(勝頼)サイド】

  • 「父を超えよう」とするあまり、経営者としての冷静な判断ができず、無謀な投資(戦)を重ねた・自分に耳ざわりのいいことを言う者ばかりをそばに置いた
    →「社長代行」「古参幹部との関係が悪い」という不利な状況であっても、それを受け入れ、異なる意見にも耳を傾け、私欲にとらわれない。それができなければ、「先代の子」というだけで大企業は運営できない。

 セミナーでは武田家だけでなく、織田家、豊臣家、上杉家、毛利家、徳川家6家の事例を一つずつ紹介。

 戦国大名という、わかりやすい例で事業承継を示すと、経営者はなじみを感じて、その気になる。参加者は、実務の参考にしようと興味深く講義に聞き入っていた。


戦国武将の相続・事業承継失敗と現代相続の類似とその話し方のポイント