(2016年4月)
相続案件増加をもたらす「民事信託」を実務で活かす 会計事務所が相続ビジネスを収益の柱のひとつにする際に効果的なのが「民事信託」。しかし、仕組みを理解することが難しいことから、実際に活用している例が多くないのが現状です。今回は民事信託を相続案件獲得に活用している川股修二税理士が、法学博士の視点で民事信託の税務機能について解説します。 ここへきて「民事信託」という言葉が最近、世の中で聞かれるようになりました。そして、この民事信託という言葉が、若干一人歩きをしている感もあります。 私どもあすか税理士法人では、民事信託に関していろいろとご相談を受けております。そのなかで200件ほどの相談事例を分析すると、以下のようになります。 ●認知症対策 ●共有持分対策 ●遺留分対策 ●事業組成 ●法人化対策 ●自社株対策 なかでも認知症対策が圧倒的に多いです。 これまでの相談の中で、民事信託の機能が期待されていることになるわけです。その期待されている機能を税務という切り口からお話をしたいと思います。 「共有名義不動産」「分散した自社株」にも活用 民事信託の税務機能は、大きく分けて5つあります。 1.分散した財産の名義を集める 民事信託によって、共有名義不動産対策や、分散した自社株対策などが可能になります。 具体的には「共有物分割による譲渡所得」や「贈与税の回避」ができます。分数で土地を持った場合にその土地を文筆しても、なかなかきれいに等分できません。そこには若干の価値のズレが生じて、そこに譲渡所得税や贈与税がかかることがあるわけです。 自社株対策についても、民事信託を使い、自社株を財産権と議決権に分離することによって、承継を容易にするという効果があります。 2.もう一つの財布に財産を分離する これは認知症対策や、事業自体を信託するということですね。 受託者の意思による相続税節税対策とか、会社分割によるキャピタルゲイン課税の回避ができます。 たとえば、委託者が認知症になってしまうと、何もできなくなります。これを受益者が代わってオペレーション、コントロールすることで、相続税の節税効果が生じるのです。 3.最初の意思を凍結する 私の知る限りでは、遺言を書いても最初の意思を貫くことがなかなかできない場合があります。遺言は新しく書き換えられる可能性がありますし、遺言があっても遺産分割協議が行われるケースもあります。そこで民事信託によって、最初の意思を絶対に曲げずに凍結させる機能を利用します。 これには認知症対策とか遺言の撤回を不能にするということが出てくるわけです。税務の機能としては、受託者の意思による相続税対策があり、財産未分割による相続税の特例非適用を回避することもできます。 遺言ではできなかったことが民事信託で可能になる 4.何代も先の財産取得者を指定する これは画期的な機能で、遺言ではできなかったことが民事信託で可能になります。財産の分散を回避して、遺留分対策にも使えるということです。財産の未分割による相続税特例非適用の回避と、遺留分減殺請求による修正申告の回避が可能になります。 5.不動産流通税を圧縮する 「民事信託はあまり節税にならない」という税理士先生方の声がありますけれども、そんなことはありません。実は民事信託行為では不動産取得税が、ほぼかからなくなります。ここが重要です。登録免許税も1/10になるので、不動産を動かす際には非常に便利です。 したがって、不動産事業の法人成りや、譲渡代金債務を資本に振り替えたり、現物出資等による株式の相続税評価のコントロールにも活用できるのです。 |