会計事務所経営に役立つ情報
(2015年10月)

大口顧問先のある事務所のM&Aは要注意!独自の手法とは?

 会計事務所M&A支援協会では、4月に新著『事例でわかる 会計事務所M&Aの準備と進め方』を出版した。同書は協会で携わった数多くの事例の一部を紹介しながら、会計事務所の事業承継・M&Aを成功させる秘訣をまとめた、これまでにない書籍となっている。

 今回は、同書で取り上げた事例の一部を紹介する。


売上の4割があるグループ企業に集中

 M&Aの相談をいただいたO会計事務所の売上は3,000万円ほど。顧問先の内訳を見てみると、あるグループ企業の顧問報酬が売上の4割も占めていることが判明した。

 もし、このグループ企業との顧問契約が解消されてしまったら、O会計事務所の売上は一気に減少してしまい、引き受けた譲受先としては大きなリスクになる。

 このように、大口顧問先が存在するケースのM&Aは、どのように進めればいいのだろうか。この場合、譲渡対価の支払方法で調整する手法がある。

 まず、主要な顧問先の顧問料分の金額を譲渡対価から除いて一時金として支払い、差し引いた分は留保金としてプールしておく。そして、無事にM&Aが終了し、主要な顧問先とも顧問契約を継続できる見込みがついたときに、再度留保金を支払うという手順になる。

 O会計事務所の場合、主要な顧問先であるグループ企業の顧問料1,200万円を留保金とし、3,000万円の売上から差し引いた1,800万円が、当初の譲渡対価の一時金として支払われた。そして、1年後無事にグループ企業と顧問契約を締結した段階で、留保金としていた1,200万円をあらためて支払うという段取りを踏んだ。

 このようにして、O会計事務所は段階を追って譲渡対価を得ることができた。

 一般的に譲渡対価は売上の1年分が目安である。しかし、大口顧問先が存在するなど、後になってトラブルが発生しそうな場合、支払条件に一定の基準を設けて調整することで、最悪の事態を回避できるのだ。


大口顧問先が上場を検討していると要チェック

 実際にM&Aで、引き継ぎの最中に大口の顧問先が抜けてしまうケースがある。大口顧問先との顧問契約が解消される理由には、M&Aを行った会計事務所側の引き継ぎの失敗だけでなく、顧問先の状況による場合もある。大口顧問先が上場を検討している場合などは、M&Aをきっかけに公認会計士に乗り換えてしまう恐れがあるだろう。

 そういった点を事前調査で確認しておかないと、譲受先から後になって「譲渡対価を下げてほしい」「当初予定していた売上のめどが立たないので支払いができない」「職員の継続雇用が守られない」といったマイナスの要望が出て、大きなトラブルに発展する可能性がある。

 こうした事例は、コンサルタントを介在させず、知人の税理士同士でM&Aを進めたときに起こりがち。条件をきちんと詰めず、あいまいにしたままM&Aを行い、後になって相手の顧問先の内容や事務所の事情が判明し、「こんなはずじゃなかった」とトラブルが起きるケースは珍しくない。

 M&Aを希望する会計事務所の評価を算定する際、事前に顧問先の詳細を確認する。そこで、事務所の売上の大半を占めるような大口顧問先がある場合は、特に注意を要するのだ。


事業承継に最適と思われるスキームを提案

 会計事務所のM&Aと一口に言っても、現実のM&Aは1件1件すべてが異なる。会計事務所M&A支援協会は、会計事務所業界に長年精通し、事業承継に最適と思われるスキームを提案。譲渡先、譲受先の双方が満足できるM&Aの実現に努めている。


会計事務所M&A支援協会