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(2015年1月)

元税理士専門官が「税理士生命の守り方」を解説

リスクが大きい「過失による特定の義務違反行為」

 「税理士懲戒処分」になり得る注意すべき違反行為懲戒処分の処分事由は、以下の3種類に分類されます。

1.故意による特定の義務違反行為
2.過失による特定の義務違反行為
3.その他の義務違反行為

 ここで気をつけなければいけないのは「過失による特定の義務違反行為」です。

 「故意による特定の義務違反行為」にあたる税理士法第四十五条第一項(脱税相談等をした場合の懲戒)と、「過失による特定の義務違反行為」にあたる税理士法第四十五条第二項(脱税相談等をした場合の懲戒)とを比べると、当然処分としては税理士が自覚している分、第一項の方が重いのですが、自覚していなくても過失責任を問われる以上、第二項の方がリスクは大きいのです。

 税理士法第四十五条第二項の違反事例を2つ挙げておきます。税理士として本来払うべき注意を怠った結果、違反行為として罰則を科せられています。

事例1 原始記録を確認せず、売上除外の事実を税務調査で把握

 A及びB銀行に売上の入金口座として会社名義の口座を開設しており、顧客への請求書にも二つの銀行を併記しており、領収証もA銀行入金分とB銀行入金分を区分していなかったが、会社は決算申告に際しA銀行に振り込まれた売上を除外した。税理士は関与当初から原始記録を確認したことがなく、売上除外の事実を把握しておらず税務調査により売上除外の事実を把握された。税理士は、相当の注意を怠った結果、所得金額を不正に圧縮した申告書を作成し提出したとして懲戒処分を受けた。


「職員に対する監督義務」は予期せぬ最大リスク

 「過失による特定の義務違反行為」で、よくあるケースとしては[使用人等に対する監督義務]の規定です。顧問先の多い大規模な税理士事務所の所長税理士あるいは税理士法人にとって「予期せぬ懲戒処分」を受ける最大のリスクとなり得ます。

 職員に対する監督義務の規定に関する事例を挙げておきます。

事例2 顧問先から架空経費や売上除外を強要

 職員が担当先の代表者から強要されて架空経費の計上あるいは売上除外等の方法で所得金額を不正に圧縮した決算書を作成し、それに基づいて申告書を作成、提出した。

事例3 書損した総勘定元帳をメモ用紙に使い普通ゴミで廃棄

 書損した顧問先の名称が入った総勘定元帳や財務諸表の用紙の裏側を他の顧問先の申告書として使用したり所内のメモ用紙等で使用し、裁断することなく普通ゴミとして廃棄したこと等が守秘義務反に問われた。


職員の違反行為への4つの予防策

 職員の違反行為への予防策として、次の4点が挙げられます。

1. 常勤、非常勤にかかわらず守秘義務規定を盛り込んだ誓約書あるいは雇用契約書を交わす
2.最低でも年に1回は職員研修を実施して注意喚起をする
3.顧問先の担当を複数制にするなどチェック機能が働く仕組みをつくる
4.税理士自身が定期的に顧問先を訪問する

 どのような予防策を講じるかは事務所の規模や運営方法に合わせる必要があるので一概に決められませんが、個々の所長税理士の危機管理に対する認識、問題意識が重要となります。

 懲戒処分は業務禁止・停止となる重い処分であり、税理士生命にかかわります。突然降り掛かるリスクに備え、対策を取ることをおすすめします。


税理士懲戒処分 考え方と事例及び対策