会計事務所経営に役立つ情報
(2014年11月)

海外企業取引の税務上の内容が変化している!

 「移転価格」というと、少し前まで大企業に限られた話という認識だったかと思います。しかし、現在は中小企業でも海外進出が活発になり、移転価格調査の裾野が広がっています。

 今回は、元国税調査官で東京国税局において20年近くにわたり実際の移転価格調査を行ってきた双木希一税理士が、移転価格をめぐる企業取引の税務上の内容の変化について解説いたします。


対象広がる「移転価格税制」

 まず、移転価格(TransferPricing:TP)とはどのような制度かについて説明します。移転価格とは、企業がグループ間で海外の子会社と取引を行うにつき、その取引の対価(価格、利益)が適正な水準にあるかどうかを税務上検討することを指しています。

 適正な水準にあるかどうかの目安は、グループ間取引の当事者の取引が、独立の第三者間で行った場合と同様の水準にあるかどうかを見極めることとなります。これを「独立企業間原則」という言い方がされております。

 日本の税務当局という観点から見ますと、日本本社を中心として、一般の法人税調査と同様に、移転価格の調査が行われるということになります。

 法人税の取引を宛先別に考えると、次の4つに分けられます。

●国内のグループ子会社との取引
●資本関係等のまったくない国内の第三者との取引
●資本関係等のまったくない海外の第三者との取引
●海外のグループ子会社との取引

 法人税等の調査といいますと、国税局、税務署いずれの調査も法人税、消費税、源泉所得税の調査をすることになりますが、移転価格調査は法人税の調査にあたります。移転価格の対象になるのは、上記の4取引のうち「海外のグループ子会社との取引」というイメージになります。

 移転価格税制の調査というのは、一定の関係がある海外の子会社との取引について、その是非が対象となります。

 海外子会社を間に入れることで移転価格税制の対象に昨今、海外企業との取引について、税務上の内容に変化が生じています。





 たとえば、上図のように日本企業Aを中心として、資本関係のない第三者である日系海外企業Bと、製品Xについて輸出取引を従前から行っていたとします。この場合、海外取引ではありますが、第三者の取引なので、移転価格税制の対象とはなりません。

 ところが昨今事例として増えているのは、取引先海外企業Bが日本企業Aに対して、現地の海外子会社Aをつくってくれと要請するケースです。ビジネスの迅速化や効率化のために、現地拠点を持って出先対応をすることになります。

 そうすると、どう内容が変化するのか。製品Xを輸出することには変わりないのですが、日系海外企業Bに届けるまでにグループ子会社Aという海外企業が間に入ってくることになります。すると、日本企業Aから見ると、第三者に対しての輸出取引ではなくなり、グループ子会社に対しての輸出取引に変化することになります。

 同じ輸出取引でも宛先が変わることによって、移転価格税制の対象ではなかったものが、移転価格税制の対象になってしまいます。このあたりを税理士の先生方はつかんでいただければと思います。


課税事例に学ぶ移転価格税制の留意点