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医療費の額から控除される損害賠償金

(2016/06/09)
  医療費控除の対象になる医療費の額は、居住者が支払った金額から損害賠償金等を除くこととされているが、この損害賠償金が長期間にわたり認定できないことがある。
 例えば、熊本県のチッソ水俣工場から水俣湾等に排出されて魚介類に蓄積されたメチル水銀が、その魚介類を多量に摂取した者の体内に取り込まれて、神経細胞障害などの疾病を引き起こした水俣病事件が有名である。
 昭和44年6月に、重篤な症状を持つ患者らが企業に対して損害賠償請求を提訴した第一次訴訟において、熊本地裁昭和48年3月20日判決(判時696号15頁)は損害賠償を命じた。その後「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」や「公害健康被害補償法」等法整備が進んだものの、依然として水俣病の補償問題は継続してきた。
 最高裁平成25年4月16日第三法廷判決(裁時1578号9頁)では、被害者の症状が上記法律に規定する「水俣病」に認定されるか否かが争点となった。最高裁判決の後、被告熊本県知事は「水俣病」に当たると認定したが、すでに、提訴した原告は死亡してしまっていたのである。当然ながら、このような長期にわたる損害賠償訴訟は、修正申告の医療費控除の申告内容を是正する機会はとうに過ぎているのである。
(出所:酒井克彦・税のしるべ平成26年4月7日号)