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弁護士による課税上の説明ミスと錯誤無効

(2016/04/13)

 東京地裁平成3年7月19日判決(判タ778号247頁)は、財産分与に課税される譲渡所得課税について、納税者の動機の錯誤の主張を認めた事例である。約20年前に妻子を残して出奔し、別の女性と同棲していた夫が、妻の代理人であるA弁護士を介して離婚とその条件について話し合いをした上、妻子が建て居住している建物の敷地を財産分与として妻に譲渡し、協議離婚をすることとなったが、その手続を行ったA弁護士から、本件財産分与により夫に譲渡所得課税がなされることはない旨の説明を受けていたところ、課税されたため錯誤無効を主張したという事例である。

 いわば、代理人である弁護士に錯誤があり、これが分与者の代理人として財産分与契約、調停及び和解をした場合に重過失があるかどうかが問題となるが、弁護士が法律事務を行う専門家で、税理士の事務を当然行うことができることからすれば(弁護士法3条)、夫は、課税上の問題のあることを疑い租税専門家に相談したというべきであるから、錯誤無効の主張は認められるべきとの見解もある(伊藤由紀子「財産分与契約の無効」判タ996号48頁)。

 弁護士が課税上の説明を行った際の過誤問題として注目される事案である。

(出所:酒井克彦・税のしるべ平成26年1月27日号)