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近世の漁村における租税
(2016/02/10)

 近世の漁村では、漁業経営の不安定さを補う必要から、漁民による土地保有や農業経営が行われたようであり、支配者側もこうした漁村を農村支配の延長線上に位置付けて、漁業生産に対しても小物成や運上の名目で「漁税」を賦課する例が多かった。もっとも、漁場の地理的条件や漁法・漁具・漁獲物の種類など、生産条件が複雑・多様であって、漁税についても多くの形態や名称が存在していた。

 漁場に対する租税としては、漁場の利用を含む漁村の漁業生産全体について、その利益を見積もり石高で表す海高(海石・浦高・海成高)と、特定の海面の漁場利用に対して賦課されるものとに分けられた。また、船役や網役といった生産手段に対する租税もあった。船役は、主として漁船の種類及び船数に応じて、網役は漁網の種類とその数に応じて賦課された。

 漁業において漁獲物に課税するのがもっとも合理的ではあるが、一回ずつの漁獲高を査定して課税額を確定していたため、当初は「諸魚運上金」といって漠然とした漁税であった。

 これらの租税を負担することで漁民は漁業権を保証されていたといわれている。(佐藤和彦『租税』177頁以下(東京堂出版1997)より)

(出所:酒井克彦・税のしるべ平成24年2月13日号)