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権利の濫用
(2015/04/24)

 租税回避が権利濫用の文脈で論じられることは多い。フランスにおいて、税務当局は、係争の取引に関し、その真実の性質を復元させる権限をもつとされている。当局が上記権限を行使した際に不服がある場合には、納税義務者の申立てに基づき、係争事案は濫用禁止諮問委員会の答申に委ねられることとされている。また、ドイツ租税通則法(AO)42条は、租税法律は、法の形成可能性の濫用によってこれを回避することはできないと規定する。

 権利濫用とは、外形上権利行使のようにみえるが、具体的な事情を考慮したときに、社会的にみて権利行使として是認できない行為を指す(我妻栄『民法講義I』35頁)。

 いわゆる「やっぱりブスが好き事件」東京地裁平成8年2月23日判決(判時1561号123頁)は、漫画の原画を雑誌に掲載するために修正した出版社側の行為について、外形上同一性保持権を侵害するものであるが、締切りを大幅に経過して、合意した原画を漫画家である原告が、著作権等の侵害を理由として損害賠償請求をすることは権利の濫用であると認定している。私権を絶対的なものとして主張をすることには制限が加えられるとするのが法の一般原則である。租税法においても同様の法理が適用されるべき場面はあり得よう。

(出所:酒井克彦・税のしるべ3059号4頁)