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脱税容疑事実の新聞公表
(2015/01/26)

 犯則事件の調査の結果知り得た事実を新聞記者の取材に応じ公表することが守秘義務に反するか否かの判断は難しい。

 ある事例を紹介しよう。精神病専門医療法人の法人税法違反嫌疑事件につき仙台国税局は査察調査の初動調査を行った。その翌日、国税局の調査査察部長は地元の新聞社2社の取材に応じ、かかる法人が経費の水増しをして脱税している旨答えた。その後、調査の協力が得られない等により公訴時効が完成することなどへの考慮から、結局、告発は行われなかったというのである。

 この事件において、東京高裁昭和59年6月28日判決(訟月30巻12号2573頁)は、「守秘義務は、これを免除すべき正当な理由があれば免除されるのであって、…Wは、控訴人病院について告発する前の段階であるが、既に収集した資料から控訴人病院には法人税法違反の事実があるものと認めたので、その職責上租税犯罪の一般予防、納税道義の向上等もっぱら公益を図る目的で新聞記者の取材に応じ本件公表をしたものであり、右公表は社会通念上相当と認められる限度を超えたものではない」と判示している。

 判決は、公務員の守秘義務は高い公益性がある場合には免除されるとするのである。

(出所:酒井克彦・税のしるべ3039号4頁)