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租税行政に対する小説家の目
(2014/06/25)

 筒井康隆著『わが愛の税務署』151頁(徳間文庫2003)は、夫婦の会話から始まる。

「これ〔筆者注:必要経費〕を総収入から引いた残りが、所得金額だ。ここからまだ、基礎控除分を引かなきゃならない。15万円か。そんなに引かなきゃならないのか」

「まあ。所得金額が減っちゃうわね」

「まだあるぞ。社会保険料控除。生命保険料控除だ」

「どちらにも入っていないことにしたら。払い込み証書さえ貼らなきゃ、わかんないわよ」

「なるほど。そうしよう」

「配偶者控除というのもあるわよ。納める額が、だんだん減っていくわ」

「弱ったな」

「弱ったわね」

「よし。配偶者はいないことにしよう」

 租税行政に好意的な立場で筆を執る小説家がいる一方、その反対の者もいる。

 例えば、歴史的建造物である税務署が老朽化のため崩落し、多数の死者を出す作品『恐怖』を書いた筒井氏は、これまでもしばしばシニカルなタッチで租税行政をモチーフにしてきた。

 いずれにしても、作家は税務署に関心を抱かざるを得ない。彼らは事業所得者として毎年確定申告をしなければならないからである。税についての関心が比較的薄いといわれている給与所得者とは異なるのである。

(出所:酒井克彦・税のしるべ3025号4頁)