重要租税判例ガイド
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最高裁平成25年3月21日第一小法廷判決(裁時1576号2頁)
―神奈川県臨時特例企業税事件―
(2014/10/10)

1.事案の概要

 本件は、神奈川県臨時特例企業税条例(平成13年神奈川県条例第37号。以下「本件条例」という。)に基づき道府県法定外普通税(以下「法定外普通税」という。)である臨時特例企業税(以下「特例企業税」という。)を課された株式会社X(原告・被控訴人・上告人)が、本件条例は法人の行う事業に対する事業税(以下「法人事業税」という。)の課税標準である所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を定めた地方税法の規定に違反し、違法、無効であるなどと主張して、神奈川県Y(被告・控訴人・被上告人)に対し、主位的に、Xが納付した平成15年度分及び同16年度分の特例企業税、過少申告加算金及び延滞金に相当する金額の誤納金としての還付並びにその還付加算金の支払を、予備的に、神奈川県川崎県税事務所長がXに対してした上記各年度分の特例企業税の更正及び過少申告加算金の決定の取消し並びに上記金額の過納金としての還付及びその還付加算金の支払を求めた事案である。


2.争 点

 本件の争点は、特例企業税を課すことを定める本件条例は、法人事業税の課税標準である所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を定めた地方税法の規定に違反し、無効であるか否かである。


3.判決の要旨

 最高裁平成25年3月21日第一小法廷判決は、条例が国の法令に違反するかどうかの判断基準について、「地方自治法14条1項は、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務に関し条例を制定することができると規定しているから、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない(最高裁昭和48年(あ)第910号同50年9月10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁)。」と判示した。

 また、最高裁は、普通地方公共団体の課税権及びその限界について、「普通地方公共団体が課することができる租税の税目、課税客体、課税標準、税率その他の事項については、憲法上、租税法律主義(84条)の原則の下で、法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており、これらの事項について法律において準則が定められた場合には、普通地方公共団体の課税権は、これに従ってその範囲内で行使されなければならない。」とした上で、「法定普通税に関する条例において、地方税法の定める法定普通税についての強行規定の内容を変更することが同法に違反して許されないことはもとより、法定外普通税に関する条例において、同法の定める法定普通税についての強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することも、これと同様に、同法の規定の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものとして許されない」と説示した。

 その上で、最高裁は、「法人事業税の所得割の課税標準(平成15年法改正前は法人事業税の課税標準。…)である各事業年度の所得の金額の計算においても、…各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り、事業年度ごとの所得の金額の変動の大小にかかわらず法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から、地方税法の規定によって欠損金の繰越控除の必要的な適用が定められているものといえるのであり、このことからすれば、たとえ欠損金額の一部についてであるとしても、条例において同法の定める欠損金の繰越控除を排除することは許されず、仮に条例にこれを排除する内容の規定が設けられたとすれば、当該条例の規定は、同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効であるというべきである。」とした上で、「特例企業税を定める本件条例の規定は、地方税法の定める欠損金の繰越控除の適用を一部遮断することをその趣旨、目的とするもので、特例企業税の課税によって各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生ずる内容のものであり、各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める同法の規定との関係において、その趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効であるというべきである。」として、Xの請求を棄却した原判決を破棄し、Yの控訴を棄却した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)