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東京地裁平成24年9月25日判決(判例集未登載)
―国税通則法65条5項にいう更正の予知と「客観的に相当程度の確実性」―
(2014/09/10)

1.事案の概要

 本件は、半導体基板の製造及び設計開発等を主たる事業とする原告X社が、機械及び装置の増加償却(法定耐用年数を基準とした償却限度額を上回る減価償却を行うこと)の特例の適用要件である増加償却の「届出書」の提出を行っていないにもかかわらず、増加償却の特例を適用して法人税額を算出した上で、平成20年8月期の法人税の確定申告書を提出したものの、その後、法人税法上増加償却を行うことができないので減価償却費の償却限度超過額が生じていたとして修正申告書を提出したところ、税務署長がX社に対して法人税の過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、X社が、上記修正申告書の提出は「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」(通法65(5))に該当し、過少申告加算税を賦課することはできないと主張して、上記賦課決定処分の取消しを求めた事案である。


2.争 点

 本件修正申告書の提出が、過少申告加算税の適用除外要件とされる「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」(通法65(5))に該当するか否か。


3.判決の要旨

 東京地裁平成24年9月25日判決は、「過少申告加算税の制度は、過少申告により納税義務に違反した者に加算税を課することによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げることを目的とするものであるから、当初の申告において過少申告がなされれば、その後修正申告書の提出があった場合でも、原則として、過少申告加算税は賦課される」が、その一方で、国税通則法65条5項が、「過少申告がされた場合であっても、その修正申告書の提出があり、その提出が、『その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき』は、過少申告加算税を賦課しない旨定めている」のは、「課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を歓迎し、これを奨励することを目的とするもの」と判示した。

 そして、「国税通則法65条5項が、『調査があったことにより』更正があるべきことを予知したか否かによって、過少申告加算税を賦課するか否かを決することとしていることからすれば、当該調査が納税者の修正申告の自発性の否定につながる内容のものであること、すなわち当初申告が不適正であることの発見につながる調査があったことが要件となっているものと解すべきであり、また、『更正があるべきことを予知し』たとは、単に更正がされる主観的なあるいは一般的抽象的な可能性があるにとどまらず、更正がされることについて客観的に相当程度の確実性がある段階に達した後に、更正に至るべきことを認識したことをいうとするのが相当」とした上で、国税通則法65条1項及び5項の趣旨や文言に照らすと、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、「税務職員が申告に係る国税についての調査に着手し、その申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階(いわゆる「客観的確実時期」)に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないことをいうものと解するのが相当である」と判示した。

 結論として判決は、X社は、「本件調査担当者において本件確定申告書における申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達する前に、自発的に修正申告を決意し本件修正申告書を提出したものであると認められるから、本件修正申告書の提出は、『その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない』というべきである」として、X社の請求を認容した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)