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東京地裁平成24年12月7日判決(判例集未登載)
―繰延ヘッジ処理におけるヘッジの有効性判定の方法―
(2014/08/08)

1.事案の概要

 本件は、外国法人である原告Xが、平成20年3月期の事業年度(以下「本件事業年度」という。)終了時に保有する外貨建有価証券について、本件事業年度において外国為替の売買相場が著しく変動したとして、本件事業年度終了時の外国為替の売買相場により円換算した金額とその時の帳簿価額との差額相当額を損金の額に算入し、本件事業年度の法人税の確定申告を行ったところ、税務署長Yが、上記差額相当額のうち一部の外貨建社債(以下「本件米ドル建社債」という。)に係るものについては、その外国為替の変動に伴って生ずるおそれのある損失の額を減少させるためにデリバティブ取引(以下「本件通貨オプション取引」という。)が行われていることから、損金の額に算入することは認められないなどとして、本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、Xがこれらの一部の取消しを求めた事案である。


2.法令の規定及び主な争点等

(1)法令の規定

 法人税法(ただし、平成20年法律第23号による改正前のもの。以下同じ。)61条の9第2項は、事業年度終了時において、同条1項に規定する期末時換算法により円換算額への換算をする外貨建資産等を有する場合には、その外貨建資産等に係る外国為替差損益は、その事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する旨定めているところ、同条3項及び法人税法施行令(以下「施行令」という。)122条の3は、事業年度終了時において有する外貨建資産等につき、その事業年度において、その外貨建資産等に係る「外国為替の売買相場が著しく変動」した場合には、これらの取得等の基因となった外貨建取引をその事業年度終了の時において行ったものとみなして、法人税法61条の9第1項の規定に基づく事業年度終了時における外貨建資産等の円換算をすることができる旨定めている。そして、本件は、上記「外国為替の売買相場が著しく変動した場合」に該当することが認められる。

 他方、施行令122条の2は、同令122条の3にいう「外貨建資産等」には、その外貨建資産等に係るヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにデリバティブ取引等が行われ、そのデリバティブ取引等につき、法人税法61条の6第1項に基づく繰延ヘッジ処理の適用を受けている外貨建資産等は含まれない旨定めている。

(2)主な争点

 本件の争点は、本件米ドル建社債について、繰延ヘッジ処理を適用するための要件の一つである「そのデリバティブ取引等につき、施行令121条1項に定められた方法によりそのデリバティブ取引等がそのヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であるか否かの判定(有効性判定)を行い、有効であると認められる場合として施行令121条の2第1項に定める場合に該当する」という要件を充足するか否か、すなわち、本件通貨オプション取引につき、施行令121条1項に定められた方法により有効性判定を行い、本件通貨オプション取引が本件米ドル社債のヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であると認められる場合として施行令121条の2第1項に定める場合に該当するか否かである。


3.判決の要旨

 東京地裁平成24年12月7日判決は、まず、(1)施行令121条1項1号は、繰延ヘッジ処理におけるヘッジの有効性判定の方法について、「期末時又は決済時におけるそのデリバティブ取引等に係る法61条の6第1項に規定する利益額又は損失額とヘッジ対象資産等評価差額とを比較する方法」とする旨定めていること及び(2)金融商品会計実務指針156項は、企業会計上のヘッジ取引の有効性判定の方法について、原則としてヘッジ開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象の相場変動の累計とヘッジ手段の相場変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断するが、オプション取引については、オプション価格の変動額とヘッジ対象の時価変動額を比較する方法、すなわち、デリバティブ比較法又はオプションの基礎商品の時価変動額とヘッジ対象の時価変動額を比較する方法、すなわち、基礎商品比較法により判定を行う旨定めていること、を摘示した。

 そして、被告が、上記(2)の基礎商品比較法も、上記(1)の施行令121条1項1号に規定する有効性判定の方法として扱われるべき旨主張していることについて、同号は、「『期末時又は決済時におけるそのデリバティブ取引等に係る法61条の6第1項に規定する利益額又は損失額とヘッジ対象資産等評価差額とを比較する方法』と規定しているところ、ここにいう『デリバティブ取引等に係る法61条の6第1項に規定する利益額又は損失額』とは、法61条の6第1項柱書きが明示するとおり、〔1〕当該デリバティブ取引等の決済によって生じた損益額、〔2〕法61条の4第1項に規定する有価証券の空売り等に係るみなし決済損益額、〔3〕法61条の5第1項に規定する未決済デリバティブ取引に係るみなし決済損益額及び〔4〕法61条の9第2項に規定する外貨建資産等の期末換算差額をいう。」とした上で、「基礎商品比較法にいう『オプションの基礎商品の時価変動額』とは、オプションの想定元本と当該基礎商品の時価変動額とを掛け合わせた金額をいうものであるから、上記〔1〕ないし〔4〕のいずれにも該当しないことは明らかである」ため、「基礎商品比較法は、施行令121条1項1号に規定する有効性判定の方法とはいえない」として、被告の主張を斥けるとともに、「本件米ドル建社債は、そのヘッジ対象資産等損失額を減少させるために本件通貨オプション取引が行われているものの、本件通貨オプション取引が、本件米ドル建社債のヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であるとは認められない」などとしてXの請求の一部を認容した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)