重要租税判例ガイド
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東京高裁平成24年9月19日判決(判例集未登載)
―弁護士会の役員活動費用等の必要経費該当性―
(2014/06/10)

1.事案の概要

 仙台弁護士会会長や日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)副会長等の役員を務めた弁護士であるX(原告・控訴人)が、これらの役員としての活動に伴い支出した懇親会費や仙台弁護士会会長又は日弁連副会長に立候補した際の活動等に要した費用等(以下「本件各支出」という。)を事業所得の金額の計算上必要経費に算入し(所法37(1))、所得税等の確定申告をしたところ、税務署長Yが、これらの費用については、必要経費に算入することはできないなどとして、所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことから、Xが、上記各処分の一部の取消しを求めた。


2.争 点

 本件各支出は所得税法37条1項に規定する必要経費に該当するか否か。


3.判決の要旨

 第一審東京地裁平成23年8月9日判決(判時2145号17頁)は、「本件各支出がXの事業所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、本件各支出がXの事業所得を生ずべき業務と直接関係し、かつその業務の遂行上必要であることを要する」とした上で、Xが「弁護士会等の役員として行う活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動は、Xが弁護士として対価である報酬を得て法律事務を行う経済活動に該当するものではなく、社会通念上、弁護士の所得税法上の『事業』に該当するものではない」などとして、本件各支出はXの事業所得の金額の計算上必要経費として控除することはできないと判示し、Xの請求を棄却した。

 控訴審東京高裁平成24年9月19日判決は、Xの弁護士会等の役員等(弁護士会等の各種委員会の委員等を含む。以下同じ。)としての活動が「Xの『事業所得を生ずべき業務』に該当しないからといって、その活動に要した費用がXの弁護士としての事業所得の必要経費に算入することができないというものではない。なぜなら、Xが弁護士会等の役員等として行った活動に要した費用であっても、…Xが弁護士として行う事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出であれば、その事業所得の一般対応の必要経費に該当するということができるからである。」とした上で、「弁護士会等の活動は、弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであり、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであるということができるから、弁護士が人格の異なる弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても、弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば、その弁護士としての事業所得の一般対応の必要経費に該当すると解する」と判示した。

 そして、本件各支出のうち、弁護士会等の役員等として出席した懇親会等の費用については、「弁護士会等の目的やその活動の内容からすれば、弁護士会等の役員等が、〔1〕所属する弁護士会等又は他の弁護士会等の公式行事後に催される懇親会等、〔2〕弁護士会等の業務に関係する他の団体との協議会後に催される懇親会等に出席する場合であって、その費用の額が過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である。また、弁護士会等の役員等が、〔3〕自らが構成員である弁護士会等の機関である会議体の会議後に、その構成員に参加を呼び掛けて催される懇親会等、〔4〕弁護士会等の執行部の一員として、その職員や、会務の執行に必要な事務処理をすることを目的とする委員会を構成する委員に参加を呼び掛けて催される懇親会等に出席することは、それらの会議体や弁護士会等の執行部の円滑な運営に資するものであるから、これらの懇親会等が特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事に相当するものであって、その費用の額も過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である。」という基準を示した上で、かかる基準に照らして、費用の額が過大であるものや二次会に出席した費用等についてはXの事業所得の金額の計算上必要経費として控除することはできないとしたものの、その余についてはXの請求を認容した。

 また、本件各支出のうち、仙台弁護士会会長又は日弁連副会長に立候補した際の活動等に要した費用については、「弁護士が弁護士会等の役員に立候補した際の活動に要した費用のうち、立候補するために不可欠な費用であれば、その弁護士の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出に該当するが、その余の費用については、これに該当しないと解するのが相当である。」とした上で、Xが日弁連副会長に立候補するために、日弁連副会長候補者選挙規定に基づく費用として支出した部分についてのみ、立候補するために不可欠な費用であると認めることができるものとして、Xの請求を認容した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)