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那覇地裁平成23年10月19日判決(判例集未登載)
―税理士である被告の相続財産調査義務とその違反の有無―
(2014/03/10)

1.事案の概要

 本件は、訴外Aの相続人である原告Xらが、税理士である被告Yにおいて、訴外Aの課税対象となる相続財産を調査すべき義務を怠り、あるいは同人に過大な相続税を納税する危険を説明すべき義務を怠った結果、同人が相続していない土地(以下「本件土地」という。)についても相続税を納付することとなったために損害を被ったと主張して、Yに対し、不法行為に基づき、訴外Aの妻である原告X1につき損害金約1,200万円、訴外Aの子らである原告X2〜X5(以下、X1からX5を併せて「Xら」という。)につき各自損害金約300万円、及びXらそれぞれの損害金に対する平成10年9月23日から支払済みまで年5分の割合による各金員の支払を求めた事案である。


2.争 点

(1)Yに注意義務違反が認められるか否か
(2)相当因果関係の存否
(3)本件損害額


3.判決の要旨

 Xらは、「Yは、税務に関する専門家であるから、依頼された税務の処理に当たり高度の注意義務を負っているのであって、相続税の計算をする際、相続財産の範囲を調査確認し、依頼者である相続人が過大な相続税を支払うことのないよう注意する義務がある」ところ、「本件申告書において、本件土地は、訴外Aが相続により訴外Bから取得したと記載されているが、実際には訴外Bの単独所有ではなかった。…訴外Bが本件土地の所有権を取得していない以上、訴外Aがこれを取得することもない。しかるに、Yは、前記調査義務を果たさず、訴外Bが本件土地を単独相続したことを前提にした本件申告書を作成し、訴外Aに過剰な相続税を支払うよう指示したもので、この点に過失が認められる」と主張した。

 この点、那覇地裁平成23年10月19日判決は、争点(1)について、「税理士であるYは、税務の専門家として、税務に関する法令、実務の専門知識を駆使して、納税義務者の信頼に応えるべき立場にあるから、納税義務者のため税務代理、税務書類作成等の業務を行うに当たっては、課税対象となる財産の範囲を調査し、これを納税義務者に説明すべき義務を負うものというべきである」とし、本件においては、「Yは、本件土地の所有名義人が訴外Dであることを確認したことから、訴外Bの相続人らに事情を尋ねたところ、訴外Bが本件土地を所有していた旨の回答を得たばかりか、訴外Aから、自分が本件土地を相続したと主張されたものである。

 Yが、税務の観点に立って、相続税を負担することになるにもかかわらず相続による取得を主張する者の供述に信用性を認めたことには、合理性が認められる」とともに、Yは、上記供述の裏付けを得ていることが認められる旨判示した。

 その上で、「税理士は、税務の専門家であって、法律の専門家ではないから、ある財産を遺産に含めて相続税の課税対象として処理する場合に、所有権の移転原因を厳密に調査する義務があるとまではいえず、税務署が納税行為の適正を判断する際に先代名義の不動産の有無を考慮している現状にも照らせば、Yが本件土地に関する調査義務に違反したということはできない」などとして、「Yに注意義務違反すなわち過失を認めることはできない」ことから、争点(2)・(3)につき検討するまでもなく、Yの訴外Aに対する不法行為は成立しないとして、Xらの請求を棄却した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)