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東京地裁平成23年10月11日判決(判時2150号32頁)
―適格株式移転完全親法人株式の取得価額は零円とされた事例―
(2014/01/14)

1.事案の概要

 原告X社を株式移転完全親法人(法法2十二の七)とし、A社及びB社を株式移転完全子法人(法人税法2十二の六の五)とする適格株式移転(法人税法2十二の十七)により、株式移転完全子法人となったA社は、上記株式移転時に保有していた自己株式(A社株式)に対して割当てを受けたX社の株式を譲渡するに当たり、当該株式の取得価額を零円として譲渡損益を計算して法人税の確定申告書を提出した。

 その後A社は、当該株式の取得価額は上記株式移転時に保有していた自己株式の取得価額を引き継ぐべきであるとして更正の請求を行ったところ、被告税務署長Yから更正をすべき理由がない旨の通知を受けたことから、A社を吸収合併したX社が、当該更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求めて訴えを提起した。


2.争 点

 A社が保有していた自己株式(A社株式)の帳簿価額は零円であったか否か、これが零円であったとして、本件株式移転によりこの自己株式に割り当てられた本件株式(X社株式)の取得価額が零円となるか否か。


3.判決の要旨

 東京地裁平成23年10月11日判決は、法人税法施行令119条1項10号が、株式移転により交付を受けた株式移転完全親法人の株式の取得価額は、株式移転完全子法人の株式の当該株式移転の直前の帳簿価額に相当する金額とする旨定めていることから、本件株式の取得価額は、A社が保有していた自己株式の本件株式移転直前の帳簿価額に相当する金額であると判示した。

 A社が保有していた自己株式の本件株式移転直前の帳簿価額については、法人税法上の有価証券には自己が有する自己の株式は含まない旨規定する法人税法2条21号、及び自己株式の取得に係る取得資本金額又は対価の額に相当する金額を資本金等の額から減算することを規定する法人税法施行令8条1項等によれば、「法人が自己の株式を取得した場合には、法人税法上、資本金等の額が減少することになる反面、資産としては計上されないことになるから、当該自己株式については、消却したのと同様に扱われることとなっているものと解されるのであって、このように、法人税法上資産としての価値がないものとして扱われている自己株式については、その帳簿価額は、法人税法上は存在せず、零円になると解される」から、A社が保有していた自己株式の本件株式移転直前の帳簿価額は零円であり、その結果、本件株式の取得価額は零円となる旨判示し、X社の請求を棄却した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)