重要租税判例ガイド
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東京地裁平成23年12月1日判決(裁判所HP)
―移転価格推定課税事件―
(2013/12/10)

1.事案の概要

 本件は、原告X社がその国外関連者であるAとの間でしたパチスロ台用モーターの仕入取引に関し、被告Y税務署長が平成16年法律第14号による改正前の租税特別措置法(以下「租特法」という。)66条の4第1項に規定する独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等が遅滞なく提示又は提出されなかったとして、同条7項により算定した価格を本件取引の独立企業間価格と推定して法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたのに対し、X社が、Yの本件各更正処分は同項による推定の要件を欠くなどと主張して、その取消しを求めた事案である。


2.争 点

 本件の主たる争点は、

1) X社は、独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類又はその写しを遅滞なく提示又は提出しなかったといえるかどうか(租特法66条の4第7項の適用の可否)
2) Y税務署長が推定した独立企業間価格は適法なものかどうか(租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たすかどうか)
3)X社が提示した取引は独立企業間価格に基づくものといえるかどうか
4)本件各更正処分等の前提となる調査手続における違法の有無


3.判決の要旨

 東京地裁平成23年12月1日判決は、大要次のとおり判示してX社の請求を棄却した。

 争点1)について、本判決は、X社が独立企業間価格の算定に必要な資料を提示しなかったことを認定した上で、本件取引に関し、X社が有する書類はすべて提出しているから、租特法66条の4第7項の推定課税の要件を満たさない旨のX社の主張に対しては、「同項の文言及び…本邦における移転価格税制が申告調整型の制度であることからすれば、同項にいう独立企業間価格の算定に必要な書類とは、納税者が現に所持したり、作成したりしている書類に限られるものではないのであって、提示を求められた書類が納税者の現に所持していないものであったとしても、当該納税者において新たに作成し又は入手した上で提出することも不可能ではなく、その書類が独立企業間価格の算定に必要と認められる以上は、特段の事情がない限り、その書類が提出されない場合には、同項の推定課税の要件は満たされるというべきである」として、X社の主張を排斥した。

 また、本判決は、争点2)ないし4)についても、X社の主張を採用しなかった。

 なお、争点2)に関連して、X社は、その事業内容や財務状況等を開示していない類似法人を用いてYが推定課税を行うことは、納税者側の防御の機会を奪うものであり、相当ではないと主張して、いわゆるシークレット・コンパラブルを用いることの不当性を強調したものの、本判決は、「租特法66条の4第9項は、推定課税を行う際に、税務当局の職員が同種事業類似法人に対する質問検査権を行使することを認めているところ、このことは、この質問検査権で得られた情報を推定課税において用いることが前提とされていると解するのが相当である。

 他方、これらの企業は、納税者とは関係のない第三者であることからすれば、その事業内容や財務状況等の詳細について、税務当局の職員が守秘義務を負っていることは当然である。

 これらによれば、租特法は、税務当局がその事業内容や財務状況等について開示することができない同種事業類似法人を用いて推定課税をすることを予定しているというべきである。

 X社は、そのような制度は納税者の防御の機会を奪うもので相当ではない旨主張するが、それは、立法政策の当否を問うものにすぎないし、また、税務当局の職員が負っている守秘義務に反しない限度で、同種性、類似性についての立証をし、これに対して納税者がその信用性を争うなどすることは可能であるから、そのような制度を採ったからといって納税者の防御の機会が奪われるものではない。…推定課税の制度が、主として、国外関連取引における独立企業間価格の算定の根拠となる帳簿書類等の提示等についての納税者の協力を担保する趣旨で設けられたものであること、推定課税による更正処分等を受けた納税者は、自ら独立企業間価格を立証して推定を破る方法を採ることができることからすれば、このような制度になっていることが納税者にとって過酷であるとはいえない。」と判示して、シークレット・コンパラブルを用いたYの課税処分を適法なものであると判断した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)