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仙台地裁平成24年2月29日判決(裁判所HP)
―法人の従業員が仕入先から受領したリベートの帰属関係―
(2013/11/07)

1.事案の概要

 原告は、主として旅館業を営む法人である。

 原告の従業員である訴外Aは、平成8年10月1日に原告に入社した後、平成12年3月21日付けで和食、洋食及び中華料理部門の総責任者である調理部調理課長(和食調理長兼務)に就任し、その後、平成14年1月に調理部副支配人、平成15年5月21日に総料理長兼調理部支配人を経て、平成17年9月21日には副総支配人(料飲部・調理部所管、調理部支配人等兼務)、平成18年9月21日には副総支配人(営業部、料飲部担当、料飲部支配人、料飲課長等兼務)に就任するとともに、調理部支配人の職を解かれ、その後、平成19年12月20日付けで原告を退職した者である。

 課税庁は、平成19年9月ないし12月ころに行った原告の税務調査において、原告に食材を納入していた業者が、食材納入時にAからの指示に基づいて、いったんはいわゆるリベート(以下「本件手数料」という。)分を上乗せした価格で原告と取引を行い、納入後にそのリベート分をAらにバックしている事実を把握した。

 課税庁は、この事実に基づき、本件手数料に係る収益は原告に帰属するものであることを前提として、法人税の青色申告取消処分、法人税及び消費税の更正処分並びに重加算税の賦課決定処分を行ったところ、原告がその取消しを求めて出訴した。


2.争 点

 本件の主たる争点は、

1)本件手数料に係る収益が原告に帰属するか否か、
2)本件手数料に係る収益が原告に帰属するとした場合、その額はいくらか、
3)原告による仮装又は隠ぺい行為の有無、

である。


3.判決の要旨

 仙台地裁平成24年2月29日判決は、本件手数料に係る収益は原告に帰属するものではないとして争点1)に係る原告の主張を認めたため、その他の争点について判断することなく、原告の請求を認容した。

 すなわち、本判決は、争点1)について、「収益の帰属について、法人税法11条が、法律上収益が帰属する者が単なる名義人であって、それ以外の者が実質的に収益を享受する場合に、その者を収益の帰属主体とする旨を定め、消費税法13条も同様の規定を設けている趣旨(実質所得者課税の原則)に鑑みれば、本件手数料に係る収益が原告に帰属するか否かの判断に当たっては、本件手数料を受領した訴外Aらの法律上の地位、権限について検討するとともに、訴外Aらを単なる名義人として実質的には原告が本件手数料を受領していると見ることができるか否かを検討することが相当である。」と説示した上で、「本件手数料は、原告における本件食材の仕入れに関して授受されていたものであるところ…、原告における本件食材の仕入れに関しては入札制度が設けられていることや、仕入課仕入係に発注権限が存在しており、調理課に所属する訴外Aらには本件食材の発注権限がないこと…からすれば、訴外Aらが、本件食材の仕入れに関する決定権限を原告から与えられていたとは認められない。

 これらの事実に加え、原告においては、就業規則上もリベートの受領が禁止されており、訴外Aらを含む従業員にその旨周知されていたこと…、訴外Aらは、訴外B〔筆者注:上記食材納入業者の代表取締役〕からリベートを受領する際、塩竈市や利府町等、C荘の建物からは離れた所在地にある飲食店の、あまり人目につかないような場所で授受を行っていたこと…などを併せ考えると、訴外Aらが、本件食材の仕入れに関して授受されていた本件手数料について、原告から法的な受領権限を与えられていたと認めることはできない。

 そうすると、訴外Aらは、個人としての法的地位に基づき訴外Bから本件手数料を自ら受け取ったものと認められるところ、自己の判断により、受領した本件手数料を費消していたというのであるから…、訴外Aらが単なる名義人として本件手数料を受領していたとは認め難い。

 したがって、本件手数料に係る収益は原告に帰属するものとは認められない。」と判示した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)